「最初は痔だと思っていた」―潰瘍性大腸炎と向き合うまでの道のり― 𝗡𝗲𝘄✧˖°
「最初は痔だと思っていた」ある40代男性のケース
「最初は、ちょっとお尻から血が出るくらいでした。」
そう話すのは、横浜市青葉区にお住まいの40代男性・Aさん。仕事が忙しく、食事も不規則になりがちな日々を送っていました。
ある日、トイレで血の混じった便に気づきましたが、「痔だろう」と気にせず放置していたといいます。ところが、その後も下痢や腹痛が続き、1日5回以上トイレに行くように。食欲も落ち、体重が3kgも減ってしまいました。
「これはおかしい」と思い立ち、当院を受診。血液検査や便検査に加え、大腸内視鏡検査を行ったところ、大腸の粘膜全体に炎症が広がる潰瘍性大腸炎であることが分かりました。
潰瘍性大腸炎とは
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に慢性的な炎症が起こり、びらんや潰瘍ができる病気です。
下痢や粘液を伴う血便が特徴で、再燃(悪化)と寛解(落ち着いた状態)をくり返す、慢性の炎症性腸疾患といわれる病気です。
日本では患者数が年々増えており、10代から40代の比較的若い世代に多く見られますが、最近では高齢者の発症も多くみられます。厚生労働省の指定難病にも認定されていますが、最近は治療の進歩が著しく、適切な治療により多くの方が日常生活を送ることが可能になってきています。
診断の決め手は「大腸内視鏡検査」
Aさんの場合、内視鏡検査で粘膜全体が赤くただれ、潰瘍もあり出血しやすくなっていました。典型的な潰瘍性大腸炎の所見です。
大腸内視鏡検査では、肉眼的な炎症の範囲を確認できるだけでなく、病理検査で他の疾患(感染性腸炎やクローン病など)との鑑別も行えます。
潰瘍性大腸炎の診断には、この内視鏡検査が最も重要な検査です。
治療方法
潰瘍性大腸炎の治療の目的は、炎症を抑えて症状を改善し(寛解導入)、再燃を防ぐこと(寛解維持)です。治療法は重症度に応じて段階的に選択されます。
- ▶ 5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤
軽症〜中等症の第一選択薬です。炎症を抑える作用があり、内服薬や坐薬、注腸剤などがあります。寛解維持にも有効です。 - ▶ 副腎皮質ステロイド
5-ASA製剤で効果が不十分な場合に使用されます。炎症を強力に抑えますが、寛解維持効果はなく、長期使用は副作用のリスクもあるため、寛解が得られたら徐々に減量・中止します。 - ▶ 免疫調節薬・生物学的製剤・JAK阻害薬・S1P受容体調整薬
主に重症やステロイドが効果不十分(抵抗例)、減量・中止で再燃を繰り返す(依存例)の場合に使用されます。免疫の過剰反応を抑えることで、炎症をコントロールします。近年の治療薬の進歩により、以前より入院率や外科的治療(手術)が少なくなっています。 - ▶ 外科的治療
薬でコントロールが難しい場合や、合併症(大腸がん、腸管穿孔、大量出血など)がある場合には、大腸の切除(手術)が検討されます。
治療とその後の経過
Aさんには、まず5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤による治療を開始しました。これは炎症を抑える基本の薬です。
効果不十分のため、ステロイド剤を内服し1週間ほどで下痢の回数が減り、血便もほとんど見られなくなりました。
その後ステロイドを減量したところ症状が再燃したため、生物学的製剤を使用し寛解維持しています。
「薬でこんなに良くなるとは思っていませんでした」とAさん。
現在は、再燃を防ぐために投薬を続けながら、定期的に当院で経過観察を行っています。
薬が進歩した現在でも潰瘍性大腸炎は完全に治すことが難しい病気ですが、うまくコントロール出来れば通常の日常生活を送ることができます。
Aさんも、今ではお仕事を続けながら趣味のテニスを楽しんでおられます。
治療前
治療後
日常生活での工夫
潰瘍性大腸炎の症状は、ストレスや食生活の乱れなどで再燃することがあります。Aさんが実践している工夫をいくつかご紹介します。
- ▶ 食事は腹八分目、刺激物を避ける
辛い物、揚げ物、アルコールは控えめに。発症後は和食中心の生活に。 - ▶ 規則正しい生活リズムを意識
睡眠不足や過労が続くと症状が悪化しやすいため、夜更かしをやめた。 - ▶ ストレスをためない
休日は趣味の時間を持ち、リラックスできる時間を意識的に確保。
「病気と上手に付き合うコツは、“無理をしないこと”ですね」と笑顔で話してくれました。
長期的なフォローアップが大切
潰瘍性大腸炎の方は、長年にわたる炎症が続くと大腸がんのリスクが上がることが知られています。
そのため、寛解が続いている場合でも年1回程度の大腸内視鏡検査が推奨されています。
定期的に腸の状態をチェックすることで、炎症の再燃やがんの早期発見につながります。
まとめ
潰瘍性大腸炎は、長く付き合っていく病気ですが、早期に診断し、適切に治療を続ければ、症状を安定させて普通の生活を送ることができます。
下痢や血便が続くと「痔かも」「一時的な腸炎だろう」と考えがちですが、放置すると炎症が進み、病態が悪化し合併症を引き起こすこともあります。
少しでも不安な症状がある場合は、早めの受診をおすすめします。どうぞお気軽にご相談ください。