長引く下痢にお悩みの方へ:顕微鏡的大腸炎(microscopic colitis)について 𝗡𝗲𝘄✧˖°
このような症状はありませんか?
「もう何ヶ月も下痢が続いている」「大腸カメラをしても異常がないと言われたのに、下痢が治らない」「夜中にも何度もトイレに起きてしまう」 このような症状でお困りの方は、もしかすると「顕微鏡的大腸炎」という病気かもしれません。今回は、この聞き慣れない病気について、分かりやすくご説明いたします。
顕微鏡的大腸炎(microscopic colitis)とは?
顕微鏡的大腸炎は、慢性的な下痢を起こす病気の一種です。「なぜ顕微鏡的というの?」と思われるかもしれませんが、これは大腸カメラで見ても腸の表面は正常に見えるため、顕微鏡で詳しく調べて初めて異常が分かることから、このような名前がついています。 この病気には大腸粘膜の病理所見によって主に2つのタイプがあります:
- ➤ 膠原繊維性大腸炎(collagenous colitis):腸の壁にコラーゲンという成分が肥厚して溜まる(膠原繊維帯:collagen band)タイプ
この肥厚したコラーゲン層が水分や電解質の吸収を阻害し、慢性的な水様性下痢を引き起こすと考えられています。
- ➤ リンパ球性大腸炎:リンパ球という白血球が異常に増えるタイプ
顕微鏡的大腸炎はどんな人に見られるの?
この病気は特に以下のような方に多く見られます:
- ➤ 中年以降の女性(男性の数倍多い)
- ➤ タバコを吸う方
- ➤ 特定のお薬を飲んでいる方(NSAIDs:痛み止め、PPI(プロトンポンプインヒビター):胃薬など)
年齢を重ねた女性に多いのが特徴で、特に閉経後の方に多く見られます。
顕微鏡的大腸炎の症状について
- ➤ 1日に5-10回以上の水のような下痢
- ➤ 夜中にも下痢でトイレに起きる
- ➤ 体重が減る
- ➤ 疲れやすい、だるい
主な症状は慢性的な水様性下痢で、1日5-10回以上の下痢が続くことが多く、夜間にも症状が持続するのが特徴です。血便は通常認められず、発熱や腹痛も軽度であるか認められません。体重減少や脱水症状を伴うこともあります。
顕微鏡的大腸炎はどうやって診断するの?
➤ 1. 問診と診察
まず、症状がいつから始まったか、どのようなお薬を飲んでいるかなどを詳しくお聞きします。
➤ 2. 大腸カメラ検査と組織検査(生検)
診断には大腸内視鏡検査と組織学的検査が必要です。内視鏡所見では粘膜表面は正常に見えることが多いものの、軽度の発赤や浮腫、時に縦走潰瘍や粘膜裂創、血管増生といった所見を認めることがありますが、内視鏡上は軽微な変化です。確定診断は生検組織の病理学的検査によって行われ、上皮下コラーゲン層の肥厚と慢性炎症細胞浸潤が確認されます。
➤ 3.その他の検査 血液検査や便の培養検査等で、他の病気ではないことを確認します。
顕微鏡的大腸炎の治療法について
治療の第一選択はブデソニド(経口ステロイド薬)です。ブデソニドはステロイドの一種ですが腸への局所作用が強く、全身への副作用が少ないため、高齢者にも比較的安全に使用できます。ブデソニドが使用できない場合や効果が不十分な場合には、整腸剤・プロバイオティクス、その他が選択されます。また、薬剤性が疑われる場合には、原因薬剤の中止や変更も重要な治療選択肢となります。
生活習慣の改善
➤ お薬の見直し:痛み止めや胃薬など、原因となっている可能性があるお薬の変更を検討します。
➤ 禁煙 :タバコは症状を悪化させるため、禁煙が重要です。
➤ 食事と水分補給:脱水を防ぐため、こまめな水分補給を心がける、刺激物(辛いもの、カフェイン、アルコール)を控える、消化の良い食事を規則正しく摂る
顕微鏡的大腸炎の経過と予後
予後は比較的良好で、適切な治療により多くの患者さんで症状の改善が期待できます。しかし、治療を中止すると再発することが多いため、長期的な管理が必要となります。定期的な経過観察を行い、症状に応じて治療の調整を行うことが重要です。
まとめ
顕微鏡的大腸炎は適切な診断と治療により改善が期待できる病気です。大腸カメラで異常がないと言われても症状が続く場合は、この病気の可能性もあります。慢性下痢に悩む患者さんには本疾患の可能性も考慮した診療を行うことが大切です。長引く下痢でお悩みの方、症状が気になる方は、お気軽にご相談ください。
参照文献:Miehlke S, et al. European guidelines on microscopic colitis: United European Gastroenterol J. 2021 Feb 22;9(1):13–37.